2022年ベストアルバム
年一の更新です。歳をとるごとに一年があっという間に感じる今日この頃、2022年に聴くべき盤を聴き切れたかと問われると凄く自信がありませんが、今年もシンプルに「良い!」と思った作品を30枚選んでみました。
30位:The Long Way, The Slow Way/Camp Trash
昨年リリースのデビュー7インチが界隈で話題となったフロリダのエモ〜パワーポップ4ピースの初のアルバム。SuperchunkやApples In Stereoあたりのインディギターロック〜初期TGUKあたりのパンキッシュなエモの影響を感じるサウンドとメロディはまず嫌いな人がいないやつ。ミドルテンポの楽曲を効果的に配置して最後までテンションが落ちない構成は新人バンドらしからぬ職人気質も感じる。
Camp Trash- Let It Ride (OFFICIAL VIDEO) - YouTube
29位:God Save the Animals/Alex G
名義を(Sandy)Alex G→Alex Gに戻しての新作。(Sandy)期の作品は比較的モダンで素直にメロディアスなアプローチが増えていたが、今作はよりハイファイでジャンルレスなプロダクションながら初期作にも通じる不気味で不安なアレンジが戻ってきた。コロナ禍の混沌がそのまま音になったようなアンバランスさが不思議と耳に心地よい。そんな中終盤にふっと投入されるMiraclesは過去最高に美しい曲。
28位:Will Of The People/Muse
ジョン・レノン、クイーン、マリリンマンソンをごった煮にしたような①からガッツポーズ!個人的にMUSEというバンドの魅力は過剰性だと思っているので、バンドサウンド〜エレクトロサウンドの両面でカッコ良さもダサさ(⑥とかMUSE以外のバンドがやったらブチ切れ案件w)も全開にした今作は久々の快作。スケール感のある楽曲は確実に大箱のライブで映えそう。
MUSE - WILL OF THE PEOPLE [Official Music Video] - YouTube
27位:Their/Their're/Three / Their/They're/There
現行エモシーン最重要人物Evan WeissがInto It,Over It、Pet Symmetryと併行して活動しているエモリバイバルバンドの初アルバム。すっかり売れっ子になったMike Kinsellaは脱退してしまったものの後任ドラマーJaredのプレイはMatthewの変則タッピングギターとの相性も良く、最近のEvanの作品の中で最も正統派エモ的な激しさを感じる一枚に。
A Symphony of Sparrows - YouTube
26位:Octante/Delfina Mancardo
アルゼンチンの新鋭SSWのデビューアルバム。まず再生して一音目のピアノにハッとさせられる。ネオフォルクローレ的なサウンドを軸にしつつもメロディはジャズ〜ポップス的な要素も濃いめで、ノラ・ジョーンズなどのジャズ畑の女性SSWが好きな人でもスッと受け入れられるのでは?
Little Red Boat - Delfina Mancardo - YouTube
25位:It's Deliberate/Peter Gallway & The Real Band
Fifth Avenue Band,Ohio Knoxなどで活動してきたベテランSSWの新作。シンプルで無骨なバンドアンサンブル、淡々とビターな中にもふっと彩りを感じるようなメロディラインは最早職人芸。過剰でも過少でも無いこのオールドファッションなサウンドは今の時代には逆に新鮮に、個性的に感じる。ボス、ブルース・スプリングスティーンが推薦文を書いているのも改めてミュージシャンズミュージシャンとしての影響力の大きさに驚く。
Peter Gallway & The Real Band "It's Deliberate" - YouTube
24位:World Record/TWEEDEES
元Cymbalsの沖井礼二とシンガー清浦夏実によるユニットの4年ぶりとなる4作目。個人的には大傑作のデビュー作以降の作品は若干しっくりこない部分もあったけど、今作は爽やかかつ躍動的な①②の流れで一発ノックアウト。人力sine(Cymbalsの3rdアルバム)とでも言うべき?ロック要素薄めなのにドライブ感があるポップミュージックのメリーゴーランド。Soleil、竹達彩奈提供曲のセルフカバーも絶妙。
TWEEDEES - Victoria (Offical Video) - YouTube
23位:erewhon/erewhon
佐々木喫茶が全面プロデュースを手がけるティーンズアイドルグループのデビューミニアルバム。喫茶節全開のどポップでキャッチーなエレクトロチューンとあどけない歌声の相性は抜群。特に①"りぴりぴ"は今年のベストアイドルソング&MV(百合的世界観が最高)の一つに挙げたい。永眠すみれちゃん推しです。
22位:Hugo/Loyle Carner
サウスロンドンのヒップホップシーンの代表格となったラッパーの3作目。これまでのネオソウル的な作風から一変、ジャズやゴスペルに寄せたマイナーコードで哀愁を帯びたトラックが印象的。自身のパーソナリティや社会問題に切り込んだダークでシリアスな内容ながら、怒りの感情を前面に出さないロイルのラップが絶妙なフラット感というか暗くなり過ぎずのバランスを保っている。
21位:Squeeze/SASAMI
前作では穏やかでチルなギターポップを奏でていたLAで活動する韓国系SSWが新作で脅威の変貌。日本の妖怪にインスピレーションを受けたビジュアル、ポストメタル・インダストリアルからの影響を前面に出したサウンドに。一方で前作からのフォーキーな楽曲も健在で、両極端なのにアルバムとして自然な流れになっているのはどんなアレンジでも根底にあるヒンヤリとしたメロディゆえだろうか?
SASAMI - Skin A Rat (Official Audio) - YouTube
20位:CAARRS/PENPALS
90年代後半〜00年代前半にかけてスマッシュヒットを飛ばしたオルタナ〜パワーポップバンドによる18年ぶりの新作。昨年同一メンバーによるAFOK名義でのリリースはあったが、ダークでグランジ色の強かったAFOKと比べると今作は最初期のPENPALSが戻ってきたかのようなローファイでオルタナでポップなサウンドに一曲目から快哉を叫びたくなる。最高のカムバックアルバム!
19位:11:11/Pinegrove
Pinegroveは個人的に「良いのはわかるけど、インディロックシーンの救世主扱いされるには過大評価じゃね?」とずっと思っていたのだけど、今作は正直めちゃめちゃ良かった。②の速くて短いAlaskaがアルバム全体の滑走路的な役割となって、それ以降はずっとミドルテンポなのに最後までダレない。唐突にスパッと終わるアルバムラストも良い。
Pinegrove - "Alaska" (Official Lyric Video) - YouTube
18位:Steady/Sloan
カナダのビートルズ、パワーポップの至宝Sloanの13thアルバム。メンバー4人それぞれが曲を書き歌う不変のスタイルで届けられるキャッチーな楽曲。無駄の無い骨太な演奏に、美麗なコーラスワーク。今これほどシンプルにロックを聴いた気持ちになるアルバムがどれだけあるか?Steady(地道・着実)という言葉が本当に似合うバンド、リスペクト!
Sloan - Scratch The Surface - YouTube
17位:EBM/Editors
Benjamin John Power (Blanck Mass)が加入後初のアルバム。オリジナルギタリストの脱退でテクノ〜ニューウェーブ路線に進んだ3rdアルバム以降の物足りなさが嘘のような振り切れ方。これは1stアルバムThe Back Roomのキレと衝動性を全く違うアプローチでぶつけたアルバムだ。攻撃的なエレクトロサウンドと荒ぶるビートに耽美なメロディ、ロックバンド的ダイナミズムが見事に融合した傑作。
Editors - Picturesque (Official Video) - YouTube
16位:Quality Over Opinion/Louis Cole
ドラマー・プロデューサーとしても活躍する多彩なアーティストの4年ぶりの新作。デジタルファンクを突き詰めた前作の流れを汲んだ楽曲も勿論あるが、今作で印象に残るのはSSWルイス・コールのメロディメイカー、シンガーとしての実力。一聴するととりとめがないように感じる楽曲群も聴き終わる頃にはすっきり纏まってしまうのも不思議。12月の来日公演も素晴らしかった。
Not Needed Anymore - Louis Cole - YouTube
15位:Jacob's Ladder/Brad Mehldau
毎年精力的に多様な作品を作り続けるジャズピアニストの新作はメルドー流プログレッシブロック。ピアノのみならず攻撃的なシンセのフレーズや、メルドー作品では珍しいボーカル、アジテートやアコギも導入するなど、これまでもチラ見せしていたクラシックロックへの造詣の深さを前面に出している。素直にカッコいい!の一言。
14位:マーブルワールド/com
自分が現代アイドルの音楽が好きなのは、雑多なジャンルを多種多様なアプローチでポップミュージックに落とし込んでいるから。今年一番それを感じた作品がこれ。3→4人体制になるにあたって作成した全曲新曲の初のフルアルバム。ジャンルレスなサウンド、躍動感のある複雑なリズム、でもしっかりポップ、4者4様の華やかなボーカル、これぞアイドルだからできるアプローチ。藤谷寧々ちゃん推しです。
comme moi-アグリーダックリング[MUSIC VIDEO] - YouTube
13位:Waiting for the End to Begin/Overo
Perfect FutureとFootball Etc.のメンバー2名ずつで結成されたポストHCバンドの2ndアルバム。時に叫び、時に冷淡に歌い呟くBrendanとLindsayによる男女ツインボーカルは破壊力抜群。クリーン⇄バーストパートを巧みに使い分けた緩急のある展開に、今作は菅弦楽器も導入しよりドラマチックなサウンドに。リバイバル勢や現行激情勢とは一線を画す滅びの美学を感じるエモ。
Overo - Walls [Music Video] - YouTube
12位:Doggerel/Pixies
再結成後4作目となる3年ぶりのアルバム。再結成当初はフランク・ブラックのソロをピクシーズサウンドでやってる感、若干ポップ過ぎる気配があったが今作で遂にフランクもバンドも完全ピクシーズモードになった感。適度に捻くれ適度にポップな絶妙なバランスが帰ってきて、楽曲のクオリティも初期の傑作に劣らない。メインボーカルの曲は無いもののパズのコーラス、ベースがいい仕事しまくっていて影のMVP。来日公演でも現役ライブバンドっぷりを思う存分発揮してくれて頼もしかった。
Pixies - Nomatterday (Official Lyric Video) - YouTube
11位:At Scaramouche/Shabason & Krgovich
サックスプレイヤー兼アンビエントミュージシャンと職人ポップスを奏でるSSWによるカナダ人同士のデュオ作。Shabasonのソロ作は以前から愛聴していたが、彼のアンビエントサウンドが歌物にこれほどしっくりくるとは嬉しい驚き。ニューエイジ的サウンドに穏やかな歌声とメロディ、そこに漂うアンビエンス、完璧な心地良さ。
Shabason & Krgovich / I Am So Happy With My Little Dog - YouTube
10位:Florist/Florist
アンビエントのソロ名義でも活動するEmily.A.Spragueを中心に結成されたフォークバンドの4作目。Emily1人でレコーディングされた前作の悲壮感は薄らぎ、シンプルながら豊穣なバンドアンサンブル、さらに彼女のアンビエント作品の要素も多分に織り込まれた静謐で温かみを感じる作品となった。深夜に一人で聴きたくなる、孤独感をそっと包み込むような音楽。
Florist - Spring in Hours (Official Music Video) - YouTube
9位:fifthRuler./tipToe.
本来であれば6月にリリースされたアルバムcandlelight(これも名作です、念のため)が選出予定だったが、12月にリリースされたこの作品が傑作過ぎたため確定直前に急遽差し替えに。"雨"をテーマにした5曲にインストも含めたミニアルバム。1曲を除き現代アイドルとしては比較的珍しい4-6分台のミドルテンポの楽曲が中心となり、物理・心理的な雨模様に重なるようなアレンジ、詞世界が展開される。個人的にはエレクトロニカにポエトリーなラップが絡む②が出色の出来。柚月りんちゃん推しです。
8位:Martelo/Rafaerl Martini
ブラジルの現行音楽シーンを代表するミナスの才人の新作は、エレクトロサウンドも導入した長尺のプログレッシブなラテンジャズインストに。今年デュオで来日したアントニオ・ロウレイロもドラムで参加するシクステットのアンサンブルによる複雑で緊張感のある反復と展開の連続にゾクゾク。
7位:Du Und Ich/Pohgoh
90年代のフィメールエモの代表格として人気を博し、3年前に再結成した4人組の通算3作目。ボーカルSusieが長年多発性硬化症と闘病しているとは思えないほどポジティブで爽やかに突き抜けたポップさにキュンキュン!鍵盤やストリングスを効果的に差し込んだプロデューサーJ.ロビンス御大の手腕も見事。これはもうエモとか取っ払って全てのギターポップ好きが聴くべきやつ!
Pohgoh "Weeds" (Official Music Video) - Available Now - YouTube
6位:Emotional Creature/Beach Bunny
2020年リリースのデビュー作で一躍パワーポップ新世代として注目された4ピースバンドの新作。90'sのUSオルタナや、アヴリルなどの00'Sガールズロックのいいとこ取りのパンキッシュなパワーポップ。より強靭でラウドになったバンドアンサンブルとショーン・オキーフによるハイファイなサウンドプロダクションも楽曲の甘さを引き立てる。今年度最高フィメールギターポップはこれ!(Pohgohとどっちにするか迷ったけどw)
Beach Bunny - Entropy (Official Music Video) - YouTube
5位:Meu Coco/Caetano Veloso
御年80歳(?!)未だにブラジル音楽の第一線を走り続ける鬼才の新作。流石にこれくらいのキャリアになると、年相応の枯れ感のある落ち着いた作品になってもおかしくないのだけど、一切そんな気配が無いのがカエターノがカエターノたる所以。様々な音楽要素を貪欲に吸収して独自のMPBを作り上げる姿勢はカッコ良過ぎる…!
Caetano Veloso - Meu Coco (Visualizer) - YouTube
4位:Being Funny In A Foreign Language/the 1975
超大作とも言える前作Notes on a Conditional Formは長尺で構成もかなり癖が強く、個々の楽曲は素晴らしかったもののアルバムとしてはなかなか消化できない作品だった。今作はエレクトロ要素を極力排除、アコースティックな音色を多用し、バンド(固定メンバーがどんどん増殖するサポートメンバー含め)としてのThe 1975の現在、ありのままの姿を映した作品だと感じた。前作がホワイトアルバムだとしたらその後にさらっとラバーソウルをリリースしたみたいな。ちなみに自分が一番好きなビートルズの作品はラバーソウル、そういうこと。
The 1975 - I'm In Love With You (Official Video) - YouTube
3位:Asphalt Meadows/Death Cab for Cutie
サウンド面の核であったクリス・ワラ脱退以降のデスキャブの作品はどう足掻いてもその呪縛から抜け出せていない印象だったが、今作で漸く突き抜けた。エレクトロな導入から轟音のサビに突入する①からの歪んだサウンドで突き進む②で掴みはOK、そこからお得意のメランコリックで美メロな楽曲を連発していく。クリスの影響力を否定せず、今の5人でしかできないことをやっていく、そこの最良のバランスを見つけた結果なのだろうか?と思える現体制最高傑作。
Death Cab for Cutie - Wheat Like Waves (Official Audio) - YouTube
2位:Angel in Realtime /Gang of Youths
オーストラリア・シドニー出身で現在はロンドンを拠点に活動する5人組オルタナロックバンドの3作目。90'sのブリットポップ、00年代のオルタナに強い影響を受けたと思われるバンドサウンド、そしてU2のボノを彷彿とさせるDavid Le'aupepeの力強く華のあるボーカル、ここまでアリーナクラスのダイナミズムを感じさせるバンドには久々に出会った。現代音楽やワールドミュージック、IDM、80'sポップス(⑥のThe Way It Isの引用は見事)的な要素も巧みに織り込んで決して時代錯誤、ノスタルジックな作品に終わらせないセンスもずば抜けている。もっと知名度を上げて来日して欲しい。
Gang of Youths - tend the garden (Live Session) - YouTube
1位:Quitters/Christian Lee Hutson
カリフォルニア出身のSSWによる2ndアルバム。フィービー・ブリジャーズとBright Eyesのコナー・オバーストによる共同プロデュース。エリオット・スミスやペイヴメントを彷彿とさせるメランコリックなメロディをどこか捻くれたポップセンスでローファイに表現していく。派手さは無いのに随所に散りばめられたメロディのフックにどんどん夢中になり、終わった頃にはもう一回再生してしまう。多分今年一番聴いたアルバム。
Christian Lee Hutson - "State Bird" - YouTube
これ以外に30枚に入れるかギリギリ迷ったのが、このあたりです(順不同)
Dog Hours/Big Nothing
Heavy Pendulum/Cave In
Vinyl Days/Logic
Heart on My Sleeve/Ella Mai
Requiem/Korn
Ninja of Four/the band apart
SAKANA e.p./downt
fruitful days/原田知世
Va siendo tiempo/Carlos Aguirre Quinteto
Wild Loneliness/Superchunk
単発的に手っ取り早くバズる曲、音楽的バックグラウンドとかの背景を取っ払ったわかりやすさが求められる傾向が更に強くなった音楽シーンですが、やっぱりアルバムでしかできない表現がある、アルバムというフォーマットっていいなと思えた一年でした。2023年は少しレコードの高騰が落ち着けばいいですね…ではまた来年(?)